劇作・演出家である北村太一と作曲家の山下永眞が、ミュージカルを考えるチーム「ビエンナーレ」を立ち上げて臨む新作公演。人気ミュージカル劇団の主宰として、10,000人超の動員や4作品連続公演など様々な快挙を果たした二人が次に向かう先は一体どこなのか、期待が高まっている。
稽古場では、ミュージカルの常識を今一度掘り下げようとする探求心と、それに向かって試行錯誤する俳優たちの姿が、もうひとつのドラマを生んでいた。
主人公リアスを演じるのは、2005年アニー役に抜擢された石丸椎菜。子役時代からミュージカルへの出演を重ね、着実にミュージカル女優への道を歩んでいる最中だ。リアスは海の家を営む父親と二人暮らしをしているラジオ好きな高校生だが、友人二人と立入禁止の岩場に入ったことからとある騒動に巻き込まれてしまう。約束を破ったことで父親に反発する一幕中盤、勢いに任せて「相撲で運命を切り開く」と誓うナンバーで石丸は等身大の女子高生の意地らしさを激しく表現する。
お尋ね者であるCAT'S AMAのリーダー・美岬(ミサキ)を演じる今泉りえは、役の持つカリスマ性を持ち前のシャウトで力強く歌い上げる。登場ナンバー終わりのハイトーンは衝撃的で、この日も稽古場の鳥肌を誘っていた。
リアスの父親・ビリー役には宮川浩。彼は日ごと成長していく娘への想いを曲につづるミュージシャンでもあり、特にリアスに当ててうたう歌「心通うなら」はあたたかな愛情に満ちていて、聴く人の心をとらえて離さない。
演出の北村の温厚な人柄に稽古場は常に楽しく笑いに溢れているが、それとは対照的だったのが作家チームのミュージカル研究に対する熱き姿勢だ。稽古場では台本の差し替えが常に行われ、ミュージカルナンバーについても審議がされる。そして、初演ならではの執拗なブラッシュアップにも関わらずすぐに順応していく俳優たちを見ていると、こうして作品としての躍動感が生まれていくのだな、と本番が楽しみになる。
作曲の山下が描く音楽は、時には派手に、時には美しく、時にはリズミカルに物語を盛り上げる。ドラマとしての心情を汲み取りながらも、すべての楽曲にエンターテイメント性があるため、観ていて飽きることがない。どうしたらお客が喜ぶか、狙いを定めて作られているといった印象だ。Setucky☆振付のダンスシーンも音楽に見事にフィットして、心が浮き立つような気分になる。
──女性ダンサーが大人数で四股を踏むミュージカル。これだけでも十分に斬新なビジュアルであるが、それにしても心が躍る。見せ場の相撲シーン以外にも、リアスと想い人レオポルド(上條駿)の恋模様、ビリーとの家族愛、海女さんたちによる豪華絢爛なレビューショーなど、目が離せない作品だ。気になった方は、あらすじも頭に入れておくとより楽しめることだろう。
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(写真:富田大樹/文:徳田トツキ)